2021-03-06

フィリピンから違法に輸出されたムカデの新種記載

 すでに遺伝研ABS学術対策チームのMLで取り上げられていますので、多くの方がご存知かと思いますが、違法に取得されたムカデの新種記載がScience(2月10日)批判されています。
 概要は以下のとおりです。
  1. スペインの研究者がネットで珍しいムカデの写真を見た。
  2. その研究者がフィリピンのコレクターに採集を依頼した。
  3. コレクターが採取したムカデをスペインの研究者に販売した。
  4. 研究者はその標本をもとに新種記載を行った。 
 記事によれば、コレクターはフィリピン政府の採集許可を持っており、友だちが輸出許可を持っていたそうです。またスペイン人研究者は許可が必要だったとは知らなかったと言っています。
 Scienceの記事ではここまでしかわからないのですが、更に詳しい状況が記事の著者であるYaoのブログで記載されていますので紹介します。
 
 最も興味深かったのは、当事者らが実は違法な標本の取得であると認識していたのではないかという点です。フィリピン人コレクターは標本を"collectible toys"として輸出しており、スペイン人研究者は"family expenses"として支払いをしています。このことを突き止めた人(新種記載論文の査読者)は、著者が違法に標本を入手したと結論しているとのことです。(Martínez contacted Cipatで始まるパラグラフを御覧ください。)

 Yaoのブログの記載で、スペイン当局が、分類学は遺伝資源の利用に該当しないと言っていることについては、注意が必要です。たしかに、スペインのABS提供国措置では、分類学は対象とされていません。しかし、EU人が他国の遺伝資源を利用した場合に該当するのは、EU のABS利用国措置であるEU regulation 511/2014であり、こちらでは分類学が対象外とされているわけではありません。私の理解では、スペイン人著者らがEU regulation 511/2014である可能性は高いが、罰則は不明(罰則はEU各国の裁量に任せられている)だと思います。
 
 最後にアメリカ人のMatt Hudsonという研究者のウェブサイトが紹介されています。体験をもとにしたABS対応事例ということでしょうか。鵜呑みにするわけにはいきませんが参考になります。

  Scienceの記事ではその他、雑誌の編集部でどのような対応をするべきかなど、複数のインタビューが掲載されています。学術誌の編集に携わる方は参考になるかと思います。