2020-05-05

ABSとは何か? ABS講座 1

 海外産の遺伝資源を使う人は、名古屋議定書・ABS(アクセスと利益配分)を避けて通れませんが、日本語で読める資料は少ないですね。遺伝研環境省, JBAなどの公的機関のウェブ情報は色々とありますが、私的な情報発信はほとんどないようです。ここでは 私の知っていることをメモしていきます。

 

● Access and Benefit-Sharing ≃ 名古屋議定書 ⊂ 生物多様性条約(CBD)

 ABSとはaccess to genetic resources and the fair and equitable sharing of benefits arising from their utilizationの省略形です。これは、遺伝資源( ≃ ほぼ全ての生物試料)は提供国( ≃ 原産国)の財産であるから、(バイオテクノロジー的に)利用する場合には、提供国の許可(PIC)を取り、利用条件(MAT)を明確にし、利用の結果として利益(金銭的でも学術的でも)があれば還元(共有)しましょうという概念を表現しています。

 このような、生物資源を原産国のもの(主権的権利の適用)と認める考え方は、CBD(生物多様性条約)で明確になり、その後CBDの下部となる名古屋議定書で手続きが定められました。(CBDの下部にはカルタヘナ議定書(遺伝子組み換えの国際枠組み)もあります。)

 

● ABSの背景

 なぜABSを行うのでしょうか。生物学者は"生物は人類共通の財産”との考えのもと、世界のどこでも自由に研究を行ってきました。研究の一部は創薬などで莫大な富を生む源となりました。これは天然資源(石油など)が人類の財産という考えのもとで開発され、一部の会社が富むことになった構図と類似しています。現代では油田や鉱山について、所在国の許可なく開発しても良いと考える人はほとんどいないでしょう。それと同じようなパライダイムシフトが生物資源(という天然資源)についても起きたと理解できます。現代社会では、生物資源は鉱物資源などと同じように、それがある国の管理下(主権的権利の下)にあるという考えが”常識”となりつつあります。

  ただし、石油や石炭のように使い道や経済価値が明確でない遺伝資源について、所有権や主権(的権利)に思いを馳せることは、多くの生物学者にとってあまり簡単ではありません。また比較的すぐに有用に使える石油などと異なり、遺伝資源の利用によって富を得るには様々な工夫が必要となることが多いです。このような事情も、遺伝資源利用の利益配分を複雑なものにしています。

 

● ABSとCBD

 上述のようにABSはもともと生物多様性条約(CBD)の3大目標の一つとして掲げられています。その内容を詳細にしたものが名古屋議定書です。

 ABSは規制的な側面が強調されていますので「ルール」と考えている人が多いと思いますが、CBD(生物多様性条約)を重視すれば「目標」という考え方もできます。私はもっと大雑把に「概念」と考えておくのが良いと思っています。

ABS and CBD