2023-03-09

BBNJ: 公海の生物多様性保全とABS

 いくつかマスコミ報道(読売新聞; BBC日本語; Nature英語)されていますが、公海での生物多様性保全とABSに関する新条約(略称: BBNJ)の採択が近いようです。

 

 BBNJ はconservation and sustainable use of marine Biodiversity of Areas Beyond National Jurisdictionの略称です 。国連海洋法条約(UNCLOS)下部の新条約(案)として10年以上前から検討されていました。

 2017年から本格的に議論が再開され、ごく最近(3月4日まで)にも条約会議が行われていました。この会議でまとめられた54ページの新条約草案の採択が間近だったとのことで、マスコミで取り上げられたようです。草案にブラケットはなく、bisなどが残っていますが、これは対案ではなく、編集が間に合わなかっただけのようです。これ以上のテキスト変更は行われないとのことです。
 Natureも含め、メディア報道はいずれも好意的です。たしかに海の自然を保護するという点では重要な国際協定でしょう。ただ、草案(Draft Agreement)を見ると、(公)海洋生物学者にとっては名古屋議定書並みに衝撃的な条約(案)のように思います。

 影響は、陸上生物研究者にも及ぶと思われます。
 昨年12月の生物多様性条約(CBD)でDSI(デジタルDNA等配列情報)の利益配分が決まったところですが、BBNJ草案に比べれば些細なことのように見えてしまいます。BBNJ草案ではCBDのDec/15/9よりも詳細にDSIが規定されているほか、採取計画の事前提出・サンプルのID管理を行うようです。そもそもPart I (General Provision)の次(Part II)がABSとなっていることも、BBNJが生物保全自体よりもABSに主眼が置かれているとの印象を受けます。
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ABSに関するPart IIを簡単に読んだ程度ですが、採取やABSに関して以下のような内容になっています。

  • 海洋遺伝資源(公海で採取された遺伝資源, Marine Genetic Resources, MGR)とそのDSIが対象。新条約発行前のものにも適用するとのこと(Article 8)。これらを利益配分の対象とすることの明記(Art. 11.1)。
  • MGR, Biotechnologyの定義はCBDと同じ(Art. 1) 。
  • MGR採取6ヶ月前の計画詳細の通知(Art. 10, ただしUNCLOSにも同様の記載があったように記憶しています。制度がなかったところ、今回改めて運用を決めたのかと思います。)
  • 採取したMGRにはCH(クリアリングハウス)がbatch identifierを付与(Art10.2bis)。配列登録の場合には、IDをもとにCHに一年以内に連絡(Art. 10.4)。
  • ”sample”やDSIへのアクセスについて”current international practice”(国際的な慣行)が配慮されています(Art. 10.5)が、逆に公的DBへの登録義務(Art. 10.4)もあり、2年おきに条約のABS委員会に状況報告(Art. 10.5bis)もあります。
  • 非金銭的利益配分の概要はArt. 11.2に概要を提示。金銭的利益配分はArt. 11.5。具体的な方法は今後決めるが、全会一致の原則はなく3/4多数決(Art. 11.5bis)または方法が決まるまで定額レートの維持(Art. 11.5bis ante)などで金銭的利益配分が空文化しないための予防線を張っている模様。
  • Art.11bis採用ならば新条約にABS委員会で、世界標準ガイドラインを整備するようです。
  • 自国の法人・自然人が利益配分をするような法整備の義務(Art. 11.8)。
  • 全体的に負担は先進国へ。開発途上国への配慮大を明瞭にしています(ex., Art. 11.4, 11.5およびそのbis ante, bis, Part Iにもその傾向)。

ちなみに、PART III(保護地域設定)では、保護地域は提案・検討の後3/4多数決で決めることが出来ることなどが書かれています(Art. 19)。保護区の基準はannex Iにあります。

 ABS関係のアンテナは広く張っているつもりでしたが、IISD(環境系国際条約専門の報道機関)の会議要旨が出るまでこんなに話が進んでいたとは知りませんでした。日本政府がどのようなポジションだったのかなども気になります。

 日本の姿勢も今後の採択スケジュールもよくわかりませんが、研究等への影響が不安な方は所属組織・学会等を通じて情報収集・意見収集などされるのもよいかと思います。

  3/23追記:不正確だった内容を修正しました。