2020-11-29

DNA配列情報の利用に対する利益配分 4  利益配分すれば途上国の生物多様性保全につながるか?

 DNA配列情報の利用に対する利益配分 3 ー整理・全体像ー の続きです。

 今回は、下図のIIIの2点についてです。

 DSIに対して平等に利益配分を行った場合に、利益配分は、主張の強い途上国に向かうのでしょうか? この点について、CBDが報告書を作成しています。

Rohden et al. 2019. Combined study on DSI in public and private databases and DSI traceability.

 この報告書はドラフトなのでNot for citationですが、peer reviewから一年経っても正式版にはなっていないようです。

2020年1月に改訂版が出ていることを教えていただきます。

https://www.cbd.int/meetings/DSI-AHTEG-2020-01
https://www.cbd.int/doc/c/1f8f/d793/57cb114ca40cb6468f479584/dsi-ahteg-2020-01-04-en.pdf

2020-11-13

DNA配列情報の利用に対する利益配分 3 ー整理・全体像ー

 DSIの問題がCBD(生物多様性条約)だけでないこと(1)、利益配分がCBDの成り立ち(1992年以前)からの一貫した課題であること(2)を紹介しました。

 それ以外にもDSIは様々な問題を巻き込み非常に複雑な状況となっています。それぞれの問題を紹介する前に、私の頭の中の整理を紹介したいと思います。(下図)

 

2020-11-10

DNA配列情報の利用に対する利益配分 2 -CBDの成り立ちからDSIへ-

 「DNA配列情報の利用に対する利益配分」の基礎 1の続きです。

DNA配列情報(Digital Sequence Information; DSI)に対する利益配分は間違いなくCOP15とPost 2020 Global Biodiversity Framework (Post2020GBF; 愛知目標後継の10年目標)の最大の焦点です。

 この問題の背景を理解するには、CBD(生物多様性条約)が生態系保全だけの条約でなく、なぜ利益配分を含むのか、CBD, 名古屋議定書での利益配分の対象について理解するのが近道かと思います。

2020-10-30

名古屋議定書採択10周年

 名古屋議定書がCOP10(名古屋で開催)で採択されて10年が経ちました。

それを記念して5回に渡るwebinarが予定されており、一回目となる今日は名古屋議定書10歳の誕生日会が開かれています。

2020-10-25

DNA配列情報の利用に対する利益配分 1 ー紹介ー

 DNA配列情報に対して遺伝資源と同じように利益配分を求める声が、途上国から高まっています。

 これはDSIと呼ばれているものです。DSI自体はDigital Sequence Informationの略ですが、すでに「核酸(DNA, RNA)の配列情報の利用に対する利益配分に関する問題(課題) 」という"暫定的な"意味で使われています。

2020-10-14

生物採取で逮捕される二つの異なる理由

 海外で生物を無許可採集した日本人が現地で逮捕される事件を時々ニュースで見ます。

 職場で紹介するために、このような違法採取のニュースがあれば調べてみます。まず気付くのは、現地では実名報道されていることですね。日本では、たいてい名前なしで報道されていますが、現地メディアのウェブサイトでは実名に加えて顔写真が出ている場合もあります。

2020-10-12

Global Biodiversity Outlook 5

  9月15日にGlobal Biodiversity Outlook 5 (GBO5) が発表されました。GBO5は愛知目標(生物多様性条約CBDの2020年までの10年目標)の成績表のようなものです。(https://www.cbd.int/gbo/gbo5/publication/gbo-5-en.pdf)


 

2020-10-11

DSI(DNA配列情報)とABSに関するドイツの報告書

 相変わらず出張は全く無く、webinarばかりです。

 ドイツ政府が支援しているWilDSIというプロジェクトが塩基配列情報の利用に対する利益配分の報告書を出しています。先週は、その報告会がwebinarであったので参加しました。https://www.dsmz.de/collection/nagoya-protocol/digital-sequence-information/dsi-policy-options-webinar-2020

 コメントと質問数はおそらく200を超えており、大盛況の webinarでした。私も大いに楽しみました。

2020-05-25

ふたつのMTA

おもしろい契約書の2回目です。

 研究者は基本的に契約書が嫌いですね。ただ、実は食わず嫌いではないでしょうか。論文を書くのは論理構造を作っていくのが楽しいですよね。査読も、ここをこうしたらもっと良くなるよー、という発見をするのが楽しいですよね。契約書も論文と同じです。内容の矛盾や落ち度がないか(論理構造)は基本です。読みやすくなるように変更するのもOKです。定型など退屈な部分もありますが、論文でも引用文献リストを作るのは面倒だし、雑誌によって異なるフォーマットもだるいです。

 ... そんな前置とは関係なく、おもしろい契約の2つ目です。

2020-05-22

Webinar すごい

Webinar 気に入りました。

 ブラジルのwebinarを聞いたのが最初の経験でしが、その後もAU(アフリカ連合)の ABSの会議に参加(傍聴)する機会がありあました。アフリカ人が集まっている中でこっそり聞いていた感じですが、アフリカの様子がわかって楽しい気分でした。国際会議ではAUの結束が分かりやすいですが、AUメンバー中心の集まりだ、メンバー内の色々な意見が見える気がします。

 あと、イヤホンしているせいか英語わかりやすい気がします。向こうがマイクに吹き込んだ声が私にそのまま届いているのだから国際会議のような大会場よりも聴きやすいのは当然かもしれません。
 さらに、私はワイヤレスイヤホンを使っているので、席を立っている間も音声は聞こえます。これは普通の会場では無理ですね。
 チャットもあるので一部の議論がテキストとして読めるのも助かります。
 そもそも、ブラジルもアフリカも出張すれば、現地滞在1日だとしても最低でも往復4日はかかります。その移動時間がないこともいいですね。

 経験は少ないですが、GoToWebinar (GoToMeetingの仲間), Teams共にwebinarとしては同じように優秀だと思いました。zoomはwebinarでは未経験です。

 来週は同日に遺伝研のセミナーと中南米セミナーがあります。

2020-05-19

遺伝資源の不適正取得に関する事件

論文を書かずとも簡単に自分の意見を表明できるのがブログのいいところですね。

 遺伝資源の不適正な取得は時折ニュースになります。特に日本人が逮捕された場合は、テレビでも報道されますので、気付きやすいです。これらは単純に窃盗に近い方法で遺伝資源を取得したことによって逮捕されている例が多いようです。ABS的な考えの普及により、生物の取得は許可制になっている国が増えています。ABS的には普通種も法規制の対象です。

 今回はタグをABS事故事例にしました。このタグでの初投稿は、私が最も衝撃を受けた事故事例を紹介します。
Blue tarantula

2020-05-14

多国間利益配分についてのCBD調査報告

5回目の投稿です。

 今回は、名古屋議定書の第10条である多国間利益配分についてです。現状では実務上あまり関係がないので、初心者向きの内容ではありません。

 名古屋議定書は、基本的に2者間 (bi;バイ)で利益配分を行うために作られています。これは、ITPGR(食糧・農業遺伝資源条約)で設定した多国間利益配分がうまくいかなったことが主な理由のようです。

2020-05-13

おもしろ契約書 1

 研究契約に関する雑感です。

 他人の書いたMTA, MoUなどの学術関連の契約書によく目を通しますが、その出来栄えは千差万別です。雛形で対応しようとするのは無理がある場合が多いと思います。どこかで歪みが出て、契約違反となってしまっている例が多いように感じます。もっとも、かなり頑張っても完璧な契約書を作成することが困難であることも知っていますので、ある程度の矛盾は仕方がないことでもあります。
 ある程度の矛盾は仕方ないと思いつつ、英語がいい加減な契約書は がっかり度が高いです。研究者は英語に堪能です。また、論文を書く場合には数千単語の文章を何度もチェックするのが普通です。このような人たちの英文契約書が決定的に間違っているのは怠慢でしょう。

 残念な契約の一例を紹介します。

2020-05-12

ブラジルのABS

 3回目の投稿です。ABSの基礎講座は続けますが、今回は脇道です。

 

 少し前にブラジルの情報を収集していました。ブラジルは誰もが知るMegadiverse countryですね。最近の言い方では、Like-minded megadiverse countryです。

 ブラジルは名古屋議定書に未加盟でありながらABSに強い興味を持つ国です(生物多様性条約は締約済み)。2001年からABSの暫定措置例があり、2015年にそれを廃止し、新たな法律を交付しました。その後も細則(ordiance)を頻繁にアップデートしています。製品評価技術基盤機構(NITE)のNBRCが紹介しているブラジル情報は多くの人の役に立つでしょう。

 ブラジルのABS法令は(少なくとも日本人には)評判が悪いと思います。NBRCの図を見て貰えばわかると思いますが、結構複雑です。

2020-05-07

ABSはなぜ分かりにくいか? ABSの超基礎 2

 2回目の投稿です。

 ABSは分かり難さで悪名が高いです。

 今回は、なぜABSがわかりにくいのか、私なりのポイントを挙げてみます。

2020-05-05

ABSとは何か? ABS講座 1

 海外産の遺伝資源を使う人は、名古屋議定書・ABS(アクセスと利益配分)を避けて通れませんが、日本語で読める資料は少ないですね。遺伝研環境省, JBAなどの公的機関のウェブ情報は色々とありますが、私的な情報発信はほとんどないようです。ここでは 私の知っていることをメモしていきます。