2020-10-14

生物採取で逮捕される二つの異なる理由

 海外で生物を無許可採集した日本人が現地で逮捕される事件を時々ニュースで見ます。

 職場で紹介するために、このような違法採取のニュースがあれば調べてみます。まず気付くのは、現地では実名報道されていることですね。日本では、たいてい名前なしで報道されていますが、現地メディアのウェブサイトでは実名に加えて顔写真が出ている場合もあります。
 調べる目的は、その違法容疑が、ABS(アクセスと利益配分)的な違法行為なのか、自然保護法違反的な行為なのかですが、ニュースを見ているだけではなかなかわかりません。
 ABSの話は、自然保護の話とごっちゃになりやすいです。これらの規制は元を辿れば同じなんだけど、目的としては明瞭に違う、だけど一つの法律で両方を扱っていたりします。

 貴重なチョウを勝手に採ってはいけない、と言った時にその理由はそのチョウが絶滅しかねないからですね。絶滅危惧種に指定されているものは、個体数が減らないように採集が禁止されています。自然保護の観点です。
 一方で、ABS的には普通種でも採取が禁じられたりします。理由は、一部の国では、全ての生き物(人間以外)は遺伝資源として政府の管理下にあるからです。普通種のチョウも遺伝資源という(潜在的な)価値のある資源だという発想です。実際にはつかまえるだけなら遺伝資源として利用はできませんが、捕まえて持ち出されて(研究されて潜在的だった価値を具体的な価値として見出されて)その価値を勝手に使われるのを避けるために、採集を禁止しているということです。

 これらの規制は、目的が全く異なります。前者は自然保護、後者は自国の利益保護です。ただ、後者の利益保護は名古屋議定書の文脈で言えば、利益を他国から還元して貰えば、自国の自然保護のための支出とする、というのが原則です。また、どちらの規制も方法論として同じであり、自然保護という究極目的も同じなので一つの法律の中で扱われることが多いようです。

 このあたりもABSの理解をややこしくしている原因のような気がします。