相変わらず出張は全く無く、webinarばかりです。
ドイツ政府が支援しているWilDSIというプロジェクトが塩基配列情報の利用に対する利益配分の報告書を出しています。先週は、その報告会がwebinarであったので参加しました。https://www.dsmz.de/collection/nagoya-protocol/digital-sequence-information/dsi-policy-options-webinar-2020
コメントと質問数はおそらく200を超えており、大盛況の webinarでした。私も大いに楽しみました。
DSIはCBD COP (生物多様性条約の締約国会議)で主に使われている用語で、デジタル塩基配列情報(Digital Sequence Information)のことです。この名称自体には批判も多く、GSD (Genetic Sequence Data) など他の名称も提案されています。名称自体の研究報告もCBDからされているほどです。(この報告書自体も興味深い)
この報告書では、DSIに対する利益配分方法として1から5までの選択肢を提案しています。概要は下記のとおりです。
Option 1. Micro-levy
少額課税。実際の利益でなくDSI関連の(研究)活動に課税。たとえばシーケンスキットに0.1%課税など。
Option 2. Membership Fee
一定以上の利益を上げている企業に対して利用料を徴収。
Option 3. Cloud-based Fee
INSDC(DDBJなどのこと)のこれまでのサービスは維持して、特殊機能をクラウドで課金提供。
Option 4. Commons License
Creative Commonsのように4カテゴリー化したライセンスをDNA配列情報に適用する。
Option 5. Metadata & Blockchain
Block Chainによる利用の管理
3はほとんどイメージつかず。多分無意味では。2は企業の収益を税務署のように把握することはCBDにもINSDCにもできないだろうし、してほしくもない。5はすでに否定されている(https://www.cbd.int/abs/DSI-peer/Study-Traceability-databases.pdf)。1は先進国なら長期的には可能かも。4は私のイメージと最も近い(Traceablityが難しいから利用者のボランタリーに任せるしか無い)。
報告書自体は読みやすいので、興味のある方は1時間程度費やすつもりで目を通してみてはよいかと思います。報告会の録画自体も出ると言っていました。わかりやすい英語の人が多かったので、こちらもおすすめです(3時間)。
報告書ではOption 1 - 5に加えてOption 0にも言及しています。これは現状(日米独の三極でのINSDCの整備には多額の費用がかかっており、これをだれでも自由に使えること)が最良の利益配分ではないか、という提案です。
WilDSIがOption 0を捨てきれないという姿勢はひしひしと伝わってきます。実際にOption 0は利益配分としてよく機能していると思います。そもそもDNA配列情報の半分は先進国を起源(country of origin)とする生物から得られています。そのためDSIに対する利益配分を先進国が主張すれば、途上国側の支出が収入を上回る可能性があります(上記のStudy-Traceability-databases.pdfに詳しい説明あり)。
ただwebinarの参加者であるEUの高官は「Option 0では納得しない国があることは理解している。」と言っていました。EUとしてOption 0(現状維持)に固執するかは不明です。