9月15日にGlobal Biodiversity Outlook 5 (GBO5) が発表されました。GBO5は愛知目標(生物多様性条約CBDの2020年までの10年目標)の成績表のようなものです。(https://www.cbd.int/gbo/gbo5/publication/gbo-5-en.pdf)
結論については、 大手マスメディアでも取り上げられていたので、ご存じの方も多いと思います。
簡単に言うと「達成された目標なし」ということでした。
しかし、具体的にはどのような評価になっているのでしょうか。愛知目標の20のターゲットは60の要素(element)に分割されており、報告書ではそれぞれの要素について評価を行っています。評価は半円を色分けされています(凡例参照)。下の図では、色分けされた半円が要素ごとの目標達成に対する評価、赤字がターゲット全体の評価、低確度・高確度などは信頼性(原文ではconfidential)を表しています。
ぱっと見て黄色(Some Progress)が多いことがわかります。実際に60要素の内38が黄色です。一方で達成された目標はexceed 1, On track 6です。
このうち一つしか無いExceedの評価は目標 16の「ABSに関する名古屋議定書が施行、運用される」に含まれる2つの要素の内「名古屋議定書が発効する」という要素に対して与えられたものでした。名古屋議定書は50カ国の批准で発効することになっていたのですが、2020年までに126カ国が批准したことがexceedということのようです。
その他、On Trackの要素について紹介していきます。以下は、GBO4の日本語訳(http://www.env.go.jp/nature/biodic/gbo4.html)から抜き出した目標(すべての要素が混ぜ書きになっている)の中で達成された要素を太字に変更してあります。=>から下は私が本文をつまみ読みして理解した評価の根拠です。
目標9
2020 年までに、侵略的な外来種及びその定着経路が特定され、優先順位付けられ、優先度の高い種が制御又は根絶される。また、侵略的な外来種の導入及び 定着を防止するために、定着経路を管理するための対策が講じられる。
=> 情報面での進展が評価されたようです。
目標11
2020 年までに、少なくとも陸域及び 内陸水域の17%、また沿岸域及び海域の10%、特に、生物多様性と生態系サービ スに特別に重要な地域が、効果的、衡平 に管理され、かつ生態学的な代表性を示 し、良く連結された保護地域システムや その他の効果的な地域をベースとする手 段を通じて保全され、また、より広域の 陸上景観や海洋景観に統合される。
=> 陸水環境は15%が保護区とされ、海は7.5%が保護されたことの2つの要素が評価されました。
目標17
2015 年までに、各締約国が、効果的で参加型の改定生物多様性国家戦略及び行動計画を策定し、政策手段として採用 し、実施している。
=>NBSAPを170カ国が提出したことが評価されたようです。
目標19
2020 年までに、生物多様性とその価値、機能、状況や傾向、その損失による影響に関する知識、科学的基盤及び技術 が向上し、広く共有され、移転され、適用される。
=> 生物多様性の知見の拡充、特にDBの拡充などが評価されたようです。
目標20
遅くとも 2020 年までに、戦略計画 2011-2020 の効果的な実施に向けて、あらゆる資金源からの、また資源動員戦 略において統合、合意されたプロセスに基づく資金の動員が、現在の水準から著しく増加すべきである。この目標は、締 約国により策定、報告される資源のニーズアセスメントによって変更される可能 性がある。
=> 達成された要素は「途上国への国際経済支援が2倍」という点です。ODA+非譲許性(non-concession)資金は毎年39億ドルで、その他を合わせると93億ドルとなりこれは10年前の2倍、とのことでした。
一方でMoving Awayと評された要素は以下の4点です。(太字の部分がMoving Awayと評価された要素)
目標5
2020 年までに、森林を含むすべての自然生息地の損失の速度が少なくとも半減し、また可能な場合にはゼロに近づき、また、それらの生息地の劣化と分断が顕著に減少する。
=> 分断された熱帯林1.3億(個)。1200万の河川の内、1000km以上でfree-flowingは37%、海への流入が阻害されていない河川は23%とのことで、これは分断化が進行しているとの判断のようです。
目標8
2020 年までに、過剰栄養等による汚染が、生態系機能と生物多様性に有害とならない水準まで抑えられる
=> 面積あたりの施肥(窒素、リン)量は変化なしだが、窒素施肥全量は増加とのことです。
目標10
2015 年までに、気候変動又は海洋酸性化により影響を受けるサンゴ礁その他の脆弱な生態系について、その生態系を悪化させる複合的な人為的圧力が最小化され、その健全性と機能が維持される。
=> 81カ国3351箇所でサンゴ白化可能性増大(高温・酸性)。60%以上は過剰な漁業・陸海汚染・海岸開発の原因で危機的状況、とのことでした。
目標12
2020 年までに、既知の絶滅危惧種の絶滅が防止され、また、それらのうち、特に最も減少している種の保全状況が改善され、維持される。
=> Red List Indexは20年で9%減少、全地域で悪化とのことです。ちなみに大型動物では絶滅する種は減っているという評価もありますが、絶滅しそうになってから保護をしているだけという批評もありました(本来は絶滅危惧とならないようにすべき)。