2020-05-12

ブラジルのABS

 3回目の投稿です。ABSの基礎講座は続けますが、今回は脇道です。

 

 少し前にブラジルの情報を収集していました。ブラジルは誰もが知るMegadiverse countryですね。最近の言い方では、Like-minded megadiverse countryです。

 ブラジルは名古屋議定書に未加盟でありながらABSに強い興味を持つ国です(生物多様性条約は締約済み)。2001年からABSの暫定措置例があり、2015年にそれを廃止し、新たな法律を交付しました。その後も細則(ordiance)を頻繁にアップデートしています。製品評価技術基盤機構(NITE)のNBRCが紹介しているブラジル情報は多くの人の役に立つでしょう。

 ブラジルのABS法令は(少なくとも日本人には)評判が悪いと思います。NBRCの図を見て貰えばわかると思いますが、結構複雑です。

 

 ブラジルの遺伝資源を使う際にはブラジル内に共同研究者を持たなければなりません。これはin situで研究を行うには普通の発想ですが、ブラジルの場合はex stiuにあるブラジルの遺伝資源を使う場合にも適用されます。さらに、この共同研究者は、いわゆる一緒に研究をする人ではなく、ブラジル国内のABS手続きを行ってもらうための人です。また、ブラジルの考えるブラジルの遺伝資源とは、ブラジルが原産でない場合も含まれます。例えば、ブラジルで分離された微生物は元試料がブラジル国外から来たものであってもブラジルの法令の適用となります。

 他にもブラジルのABS法令が悪名高い原因はいくつもあります。一つは”遡及”が法律で明言されているからです。2015年の法律では、それ以前に採取された遺伝資源についても2015年の法律の適用を求めています。また、DNAの塩基配列をINSDCなど(DDBJなど)に登録する際にもブラジルの許可が必要などとされています。

 さらに不平を言うと、用語の使い方も大変分かりにくいです。NBRCが紹介している通り、「発送 (envio)」と「送付 (remessa)」を並列する別の方式の名称として使ったり、CGen決定12号にあるMTA (Material Transfer Agreement) は普通なら、MoU (Memorandum of Agreement) と呼ぶだろうなという内容です。

 

 そんなブラジルですが、私は好感を持つ点もいくつかあります。

 一つはABSに対する姿勢が明瞭なことです。冒頭の通り、ブラジルは名古屋議定書の締約国ではないけれどABSには熱心です。つまり、名古屋議定書という仕組みでのABSには賛成しないけれど、独自の方法でABSを行うという意味ですね。ブラジルの場合、名古屋議定書では中心的な手続きのPIC(情報に基づく事前の同意)を採用していません。利用開始は自由、利益が上がれば共有してください、という姿勢です。(ただし、PICなしにしたからといって名古屋議定書を批准できないかは疑問ではあります。名古屋議定書は締約国がPIC, MATに限らず好きな方法で遺伝資源を管理することを認めています。)

 

 もう一つ良いところは、情報発信が多いです。自国のABS法令紹介を学術誌で行なっていますし(Manuela da Silva, 2019. Brazil, example of a non-Nagoya Protocol country. Mycrobiology Australia 40(3), p.106.)、最近知った驚きとしてはABSのwebinarを開いています。

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 ちなみに、開催のお知らせは直前(開催時間の8時間前)でした…


 もう一つ。細則がコロコロ増えるのは閉口もしますが、実は現場の改善努力かも?しれません。ブラジルのFIOCRUZ財団の人にテレビ会議で話を聞いた際にそのような印象を持ちました(FIOCRUZはブラジル政府のCBD的な政策に深く関わりのある団体のようです)。ブラジルのルールでかなり面倒なことの一つは、共同研究者を探すことであり、この大変さはブラジル側も認識しているとのことです。どうやらこのルールをOrdinanceで変更する予定のようですね。共同研究者を持つこと自体は法律で決められていますので、変更できないが、その方法をOrdinanceで変更したいとのことでした。目標一年以内で、いつになるか分からないとのことでしたが。現場に近い人たちが、問題意識を持って行動してくれているのは大変良いことだと思います。


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ブラジルはfunctionalityもmarketing claimもない遺伝資源の利用には利益配分を要求しない

 昨晩ブラジルのWebinarを聞きました。

 予習なしだったことと、商業利用の遡及対応ということで真面目にも聞いていなかったのですが、面白い発見がありました。ブラジルの商業利用の利益配分は、"functionality"と"marketing claim"のどちらかがある場合だけ、要求するということでした。最終製品に付加価値を与える機能または、市場に訴求する広告性がブラジルの遺伝資源によるものであれば、お金(0.75 または 1 %)を払ってくれということです。どちらもない場合は、利益配分は不要です。(詳細は4月に出たOrdinance No. 199に書かれているのだと思います。)
 下の図は、GSSのwebinar資料です。(クレジット付きで転載可能とのことでした)
 その他Q&Aとwebinar動画も公開されています...と思いきやURLからしてwebinar参加者限定のDLリンクの可能性があるのでリンク貼りはやめておきます。

GSS webinar Clip