論文を書かずとも簡単に自分の意見を表明できるのがブログのいいところですね。
遺伝資源の不適正な取得は時折ニュースになります。特に日本人が逮捕された場合は、テレビでも報道されますので、気付きやすいです。これらは単純に窃盗に近い方法で遺伝資源を取得したことによって逮捕されている例が多いようです。ABS的な考えの普及により、生物の取得は許可制になっている国が増えています。ABS的には普通種も法規制の対象です。
今回はタグをABS事故事例にしました。このタグでの初投稿は、私が最も衝撃を受けた事故事例を紹介します。
イギリスのタランチュラ学会?誌の表紙を飾った新種記載論文が、Scienceによって猛烈に批判されました。
私が理解した主な経緯は以下のとおりです。
この事件では悪者が2グループ挙げられています。一つはタランチュラをサラワクから無許可採取した昆虫商らです。この昆虫商の行動はよくある窃盗的な遺伝資源の取得であり、違法性もかなり明瞭なのかなと思います(ただし、記事の中では昆虫商らは立件されていません)。
もう一つの悪者グループは論文著者とされています。彼らはin good faith(信頼)で昆虫商から死体をもらい、原産国での法令遵守を確認しなかったことが落ち度とされています。このScience記事では論文著者らはUKの法律違反の疑いがあるとされていますが、私はその根拠はよくわかりませんでした。記事の主張からすれば、UKの法律違反は主訴ではなく、論文著者らの確認不足が問題視されています。
私が衝撃を受けた理由は4つあります。
一つは、これが日本人でも何らおかしくないからです。私の知る限り、ほとんど同じような状況は、日本の昆虫学者にも当てはまります。昆虫の新種記載は昆虫商から購入したサンプルでも認められていると聞いています。アマチュアではなおさらではないでしょうか。
もう一つの理由は、この論文著者らの違法性は不明瞭またはないにもかかわらず、Scienceという超有名雑誌で批判されたことです。彼らが批判されたことには一定の理解を示します。が、犯罪性が不明瞭なままここまで批判されるとは、私の想像を超えていました。
さらに、この事件はいわゆる名古屋議定書とは直接関係ありません。マレーシアが名古屋議定書を批准したのは2019年であり、このタランチュラは2017年に採取れています。
最後に、この昆虫商らは実は全く反省していません。Facebookのこちらの投稿でそれがわかります。
プチ炎上しています。
というわけで、私はこの事件で4回楽しめました。
ABS対応に関して、法令上だけでなく倫理上の配慮が行われている事例は他にもあります。ただ、それらは個人情報とのミックスだったり、経済的利益が大きい時でした。このようなアカデミックの例、しかも新種記載という学術の中でも最も基礎分野においてこのような批判があったことは驚きです。分類学者・生態学者を中心にお気をつけください。